大阪「自殺サイト」連続殺人裁判傍聴ファイル(1)「白ソックスをはかせて窒息させる」姿に興奮

大阪「自殺サイト」連続殺人裁判傍聴ファイル(1)「白ソックスをはかせて窒息させる」姿に興奮

2013/09/24

大阪「自殺サイト」連続殺人裁判傍聴ファイル(1)「白ソックスをはかせて窒息させる」姿に興奮

 マスコミで大々的に報道され、世を震撼させた凶悪無比な性暴走と異常犯罪。いずれ劣らぬ「異形の者」たる犯人たちは逮捕後、いかなる素顔を見せたのか。実際の裁判傍聴を基に、その裏側にある「抑圧された生(性)」のか細き声に耳を傾け、「倒錯した世界」をあぶり出した。

 06年12月24日午後、法廷内の中央に設けられた証言席に、見苦しいほど肥満した丸刈り頭の中年男が座っていた。その前年の2月から6月にかけて、インターネットの自殺サイトに集う未成年者を含む男女3人に接近。練炭心中しようと誘い出し、大阪・河内長野市内の山林で次々に窒息死させる殺人事件を起こしたのだった。

「人が窒息する姿や白い靴下になぜ興奮するのか、自分でもわからない」

「人を襲いたいと思ったら、全てが頭の中から消え去り、自制心というものがなくなる」

「私は社会に出てはいけない人間です」

 大阪地裁の刑事法廷が、水を打ったように静まり返っていた。

 通称「大阪・自殺サイト連続殺人事件」。証言席に座る男こそ、犯人の前上〈まえうえ〉博元死刑囚(享年40)だった。

 身長171センチ、逮捕時(05年8月5日)の体重は約90キロ。頭部が大きいため、銀縁眼鏡のツルが外側に押し広げられ、色白の肌に生々しく食い込んでいた。

 以下は、この日(第4回公判)行われた弁護人との質疑応答の一部である。

弁護人「人が窒息して苦しむ姿を見て、性的に興奮するのですか?」

前上「‥‥はい」

弁護人「自分以外の人も、皆がそうだと思ってた?」

前上「はい。中2の頃、同級生がエロ本を見て興奮していて、初めて自分が人と違うのに気づいた」

弁護人「相手は男でも女でもいいわけ?」

前上「男女の区別は、僕の中ではない」

弁護人「女性の裸を見て、興奮したことは?」

前上「今まで一度もない」

弁護人「女性との性経験はありますか?」

前上「ない」

 押収された前上のパソコンやメモリースティックには、白いソックスをはいた市井の人々の、おびただしい数に上る隠し撮り写真が保存されていた。

 撮影対象は老若男女の別なく、駅の清掃員からファストフードの店員、学生に至るまで多岐にわたる。

 前上は幼少期よりおとなしい性格で、友人の作れない、典型的な「いじめられっ子」だった。無口で鈍重、陰気な印象が強かったが、礼儀だけは正しくて言葉づかいも丁寧である。

 父親は白バイ乗りの元警察官。大阪府堺市内の郊外ニュータウンに4人家族で暮らしていた。前上の「異形さ」たるゆえんの一つに、その外見があげられる。

 全身に漂う暗くよどんだ雰囲気と、大きく離れた両目。それはどんよりと見開かれ、ブキミなほど無表情だった。

 そんな前上に冠されたレッテルは、真性の「窒息マニア」にして性的サディスト、反社会性人格障害者、史上まれな「快楽殺人鬼」である。

 前上は白いヘルメットや白のスクールソックス、同じく無地のスニーカーなどに異様なほどの興奮を覚えた。それは小学1年生の頃から始まった嗜癖であったという。

◆ジャーナリスト 中尾幸司