「特急車内レイプ事件」裁判傍聴ファイル(1)乗客女性に因縁をつけてトイレに…

「特急車内レイプ事件」裁判傍聴ファイル(1)乗客女性に因縁をつけてトイレに…

2013/09/26

「特急車内レイプ事件」裁判傍聴ファイル(1)乗客女性に因縁をつけてトイレに…

「女とやりたいと思うと、その衝動が抑えきれなくなってしまう」(供述調書)──前科9犯の凶状を持つその中年男は、特に悪びれた様子もなく、大津地裁の刑事法廷に姿を現した。

 元解体工・植園貴光受刑者(42)。身長は165センチに満たず、自分を大きく見せたいのか、肩を揺すり両足を投げ出すように歩く。そのふてぶてしい態度は法廷内に詰めかけた人々の冷たい視線を集めていた。

 植園はその前科のうち強制わいせつや強姦罪といった性犯罪だけで3回、他の暴行や傷害を合わせると計6回の服役経験があった。

 そして何よりも矯正の困難さを物語っていたのが、最後の満期出所(06年7月)からひと月もたたないうちに、日本中を震撼させた凶悪事件に手を染めたことである。

 06年8月3日午後9時20分頃、富山発大阪行きのJR特急サンダーバード号の客室内は空席が目立っていた。当時、6号車内には定員(60名)の7割方の乗客が乗り合わせていたという。列車が金沢駅を出発して間もなく、6号車自由席の前方から、明らかに因縁をふっかける男の声が聞こえてきた。

 6度目の服役を終え、普通免許を取得するための特別合宿から自宅へ戻る途中の植園だった。

 植園は前から3列目の若い女性を目ざとく見つけ、手にした缶チューハイを強引に勧めていた。

「ムショから出所して、間なしで免許を取りに行ってたんや」

 あたかも暴力団風の言い方で、女性に粘っこく絡んでいた。車内改札に来た車掌をどなって追い払ったあと、偶然かかってきた友人からの電話に大声で受け答えをする。そのあまりの傍若無人ぶりに、女性が両耳を塞いで顔をそむけた。

「おい、うるさいんやったら耳栓でもせいやっ。殺してまうぞ、コラッ」

 植園は声を荒らげ、女性につかみかかった。

「大声出すな! 殺すぞ」

「やめてください」

「警察に言うなよ。ああ?もし言うたらどこまでもお前を追いかけて、ストーカーみたいなことするぞ!」

 植園は恐怖で泣きじゃくる女性の体をまさぐり、わいせつ行為を続けた。そして非難の目を向けた乗客を威嚇し、女性の手を引いてデッキまで連れ出した。デッキからは女性の悲鳴と衣ずれの音が聞こえていた。

 もはや我慢できなくなった植園はそのまま女性を男子トイレに連れ込み、レイプに及んだ。

 当時の植園には、逮捕後に入籍する交際中の妻(当時19歳)がいた。

 被害にあった女性は下車したあと、すぐに警察へ通報。体内に残された体液をDNA鑑定した結果、植園の犯行が特定された。

 この大胆な犯行の約4カ月後、06年12月21日午後10時半頃、植園は再びJR湖西線の普通列車内で乗客女性(当時27歳)に嫌がらせを繰り返し、「こんなヤクザ、嫌やろ」などと脅して女性にわいせつ行為を続けた。

〈逃げようとした被害者に立ちふさがり、『お前、逃げようとしたやろ。殺すぞ!』などと言って、さらに脅迫し、抵抗できないようにして被害者を強姦した〉(一審判決要旨より抜粋)

 同じ21日午後11時20分頃、いまだ満足できなかった植園は雄琴駅の構内で帰宅途中の女子大生を発見。劣情を覚え、レイプしようと決心した。

〈被害者の腕を引っ張って男子便所の個室に連れこむなどの暴行を加えたうえ、同個室内において、『声を出すな! 騒いだら殺す』などと言って脅迫〉(同)

 結局は強姦に及んだことが、その後の調べで判明したのだった。

「妻とケンカし、イライラしていたうえ、酒も飲んで性欲を抑えられなかった」

「大騒ぎしそうにないタイプの女性を狙った」

 一連の犯行の動機を尋ねられ、植園はそう供述している。

◆ジャーナリスト 中尾幸司