真木よう子「揺れっぱなし対面座位」(3)表情だけで心境を表現できる演技力

真木よう子「揺れっぱなし対面座位」(3)表情だけで心境を表現できる演技力

2013/08/02

真木よう子「揺れっぱなし対面座位」(3)表情だけで心境を表現できる演技力

 それにしても、実際に濃厚濡れ場を目の当たりにすると、あらためて真木の存在あっての「さよなら渓谷」と思わざるをえないが、真木を起用した経緯について大森監督が言う。

「初めて意識したのは、昨年にオンエアされ、弟(大森南朋)も共演していたドラマ『運命の人』(TBS系)を観た時です。彼女の一つ一つの演技に魅力を感じ、オファーを出したら、ご本人が脚本を読んで『やりたい』と言ってくれたんです」

 前出・森重プロデューサーもこう続ける。

「この役に合う30歳前後の女優で、体当たり演技ができて、今いちばん見たいと素直に思ったのが真木さんでした。何と言っても彼女は立ち姿がいい。そして、カメラに対して射抜くような眼力を持っています」

 真木のまなざしにホレたのは大森監督も同様で、

「真木さんは、表情だけでどういう心境なのかを一発で表現できる演技力がある。その一方で、何を考えているかわからないまなざしも持っている。今回も想像力をかきたてるまなざしを発揮してくれました」

 現在、大森監督は、渋谷のユーロスペースにて秋葉原無差別殺傷事件をモチーフにした作品「ぼっちゃん」(アパッチ)を上映中だ。

「こちらも、たまたま社会的大事件に関連した作品ですが、『さよなら渓谷』と、どちらの映画も追い詰められた人たちを描いている。常に、そういう人間を描きたいという思いがあるんです。『さよなら渓谷』では、レイプ事件の加害者と被害者が一緒に暮らすという理屈では考えられないシチュエーションを、真木さん、大西君の生身の体を持ち込むことで、その先に生まれる“愛のようなもの”を表現できたら、と思ったんです」

 今後の日本映画の流れを変える作品になると、前出の映画批評家の前田氏はこう話す。

「最近は、よけいな説明が多いわりに『キスをしたと思ったら、次のシーンはいきなり朝』という実にそっけない日本映画が多い中、この作品は、監督が役者を信じ、じっくり丁寧に撮られていることがわかる。よけいな説明がなくとも、監督の一つ一つの演出が物語に深みを生んでいる。真木さんの濡れ場でも、人間が生きていくということの凄みが伝わってきます」

 あと3カ月足らずで、真木の渾身艶技が日本中の男たちを「総立ち」させそうだ。