3大巨匠が吼えた 俺たちの「エロ劇画」は死なず!!

3大巨匠が吼えた 俺たちの「エロ劇画」は死なず!!

2016/06/07

3大巨匠が吼えた 俺たちの「エロ劇画」は死なず!!

AVやネットがない時代から、男たちの下半身を熱く盛り上げてきたエロ劇画。かつて大きな注目を集めたあの作家たちが、今なお現役で活躍中なのをあなたは知っているだろうか? 昔を懐かしがってばかりではいられない、エロ劇画の「現在」と「これから」を、3人の巨匠が熱く語り尽くす!


コンビニや書店で手にできる雑誌や単行本では、まだまだ70年代~80年代に大ブームを巻き起こした、あの懐かしいエロ劇画家たちの名前を見つけることができる。

「俺は、家庭を持って1人の女を幸せにしてやろうなんて気持ちは微塵もないね。美女をズラッと並べてさ、ハーレムを作りたいってのが男でしょ」

そうキッパリと断言するのは、可憐なバレリーナやレオタード美女が野蛮な男たちに荒々しく凌辱されるといった暴力的な筆致と過激な作風で、エロ劇画界に革命を起こした作家、ダーティ・松本だ。

「いちばん儲かったのは70年代後半かな。俺の作品だけで増刊号も出たし、まだ5年もやってないのに個人全集も出たからねぇ」

と語る松本。68年に熊本県から上京、さいとうプロに入社するが半年ほどで退社。青年劇画誌への持ち込みを経て、実話雑誌の短編でデビュー。これまでにないセンセーショナルな内容が話題を呼び、その言葉どおり、単行本や特集号が山のように刊行された。

業界きっての無頼派である松本は、現在は描き下ろし単行本をメインの活動の場として、今なお健筆を振るい続けている。約40年を迎える長いキャリアを経てなお、エロ劇画への情熱が冷めることはないと言う。

「描くのが仕事というより、描くこと自体が生活なんですよ。朝起きたら顔を洗うのと同じように、漫画を描くんです。でもね、描いても描いても描き尽くしたって気がしないんですよ。同じような場面でもね、ちょっと違う角度にして、もっとエロくしてやろうと思ったりね。普通、これだけエロ劇画を描いたら満足しちゃいそうなもんだけど、まったく満足しないんですよ」(松本)

原稿の密度は、若い頃より数段アップしているというのだから、頭が下がる。

「今は通算159冊目の単行本の作業中です。古い作品の再録は2作だけで、8割は描き下ろし」

そのバイタリティは、いったいどこから来ているのだろうか。

「俺が描かないとエロ出版界がなくなっちゃいそうでさ。やはり描けるうちに描かないとね。この仕事がなくなっちゃったら、生きがいもなくなっちゃうからね」(松本)

まさに、「生まれながらのエロ劇画家」というところだろうか。

そんな松本を追うようにデビューを果たしたのが、三条友美。偶然見かけたエロ劇画誌に衝撃を受け、80年代初頭、大学在学中にデビューした。

「昔からSM小説が好きで、繰り返される凌辱の中で女性が少しずつ変わっていく過程みたいなものがじっくり描きたかったんです」

その言葉どおり、スカトロや身体改造までに至るハードなSM調教ものを得意とし、中でも一人の少女に降りかかる数奇な凌辱体験を描いた大河ロマン「少女菜美」シリーズは大きな反響を呼び、松本同様に個人全集が発行されるまで、その人気は高まった。

三条は現在、新たな大河シリーズ「人妻人形・アイ」を雑誌連載中。現在は、CGを大胆に取り入れた新しい表現に挑戦しており、昔の作品しか知らない読者を大いに驚かせるに違いない。その取り組みのきっかけは、エロマンガの現在の主流となっている、アニメ的美観と表現を取り入れた「美少女コミック」の存在が大きかった。「どんどん表現が巧みになっていく美少女コミックに対抗するにはどうすればいいのか? と考えた末にたどりついたのが、現在のスタイルです。まずパソコンで人物の3Dデータをモデリングして、画面上でポーズをつけたものを紙に印刷して、さらにそこにペンや筆で加筆をしています。デジタルとアナログの融合ですね。それまでの描き方と比べてみると、3倍の手間と時間がかかっているんですよ」(三条)

近未来の日本を舞台に、過激なヒロインたちのバトルやセックスを描くストーリーも、まさに規格外の内容だ。

「僕は誰もやったことがないことをやりたいんです。僕が今、何に興味があるのか、何に興奮しているのかっていったら、今描いていることなんです」(三条)

まだまだ攻めの姿勢で、エロ劇画に取り組んでいる三条は、だからこそ、この作品をアサ芸読者にも読んでほしいのだと言う。

「うれしいことに、若い女性ファンも増えているんですが、今描いている作品は、オッサンと呼ばれる世代に、ぜひ見てほしいんです」

エネルギッシュに新しい表現を求める作家がいる一方で、昔ながらのエロ劇画を今も楽しませてくれる作家も数多くいる。

その代表格とも言える存在が、笠間しろう(79)。58年にマンガ家としてデビュー、以後現在まで58年間現役のまま作家活動を続けているという、まさに「エロ劇画界の人間国宝」だ。お尻やおなかのたるみを強調した、肉感的な女性を描く作風で人気がある。

「女性の体というものは、最高の芸術品だと思うんですよ。まさに美の極致です。特にね、私は中年女性のヒップを描くのが大好きなんです。どちらかといえば、自分は劇画家というよりも絵師なのかなぁ、と思っているんですけどね」(笠間)

笠間いわく、エロ劇画の道に入るきっかけとなったのには、ある大きな出会いがあったのだという。

「私は最初、青年誌でアメコミ風な絵柄でエッチなコメディを描いていたんだけど、もうそんな内容に飽き飽きしちゃってね。そしたら、たまたまSM作家の団鬼六さんと知り合って、意気投合しちゃった。その後、彼から『花と蛇』という小説を劇画化しないか、と頼まれてね。私もノッて、すっかりこの世界にのめりこんじゃった。そしたら、僕の描く女体が、ものすごい反響を呼んだらしいんだよ」

時代はまさにエロ劇画が台頭してくる70年代。あっという間に、笠間はエロ劇画界のエースの一人として活躍することとなった。

「あの頃はどんどん新しい雑誌が出てきて、ひっきりなしに原稿の依頼が来ましたね。仕事が終わると、よく新宿のゴールデン街に徹夜で飲みに行きました。時には編集者やアシスタントを20人くらい引き連れてね、銀座、赤坂、六本木と飲み歩いたもんですよ。もちろん、私の奢りですよ。あっはははは!」(笠間)

当時の売れっ子エロ劇画家が、どれだけ稼ぎまくったかがよくわかるエピソードだ。

近年は再評価も高まり、イラストの個展が開催されたり、新たに作品集が刊行されるなど、80歳を迎えようとする現在も、息つく暇はなさそうだ。執筆中の新作原稿を見せながら、笠間はこう語った。

「私はね、幸いにして常に順風満帆でしたから、これでいいのかなぁと思うこともありますけどね。ここまでやってこられただけでもありがたい。でも、読者の方に求められている間は、まだまだ現役で頑張りたいと思っています」

このように、エロ劇画の作家たちは、まだまだ元気だが、肝心のエロ劇画誌の現在はどうだろうか。

エロ劇画系に詳しい人気漫画ブロガー・劇画狼(「なめくじ長屋奇考録」)が、エロ劇画誌の動向を語る。「月刊誌・隔月誌など、定期刊行されるものが月に4~5冊、その他の別冊を含めると月に7~8冊のエロ劇画雑誌が出版されています」

一見、意外に数多く出ているようにも見えるが、全盛時代の79年頃には50~60誌のエロ劇画誌が発行され、別冊などを含めると80~100冊が刊行されていたというから、その衰退ぶりは明らかである。エロ劇画誌を出せば飛ぶように売れる、という状況は、もはや遠い過去の話なのだ。

現在では新作の描き下ろし作品を中心に編集している雑誌はほとんどなく、昔の作品の再録で1冊作るなどというのは、よくある話なのだという。

こうなった理由は何か? まず、80年代後半あたりから、エロマンガはアニメ系の絵柄やセンスを取り入れた「美少女コミック」が主流となっていく。

「美少女コミックの作家は、絵がめちゃくちゃ上手で、とにかくマスをかくための絵とストーリーに特化しているから、読者の受けもいいですしね」(三条)

さらに思わぬ状況がエロ劇画の弱体化を推し進めていくこととなる。

「今は、簡単にエロ動画が観られちゃうのがよくないよね」(松本)

「こういった雑誌を大きく取り扱ってくれる個人経営の書店がどんどん閉店していることに加えて、都条例など、さまざまな規制が厳しくなってきましたからね。例えば、今は女子校生やセーラー服を描くこともNGだし、過激なプレイは敬遠されがち。そうなると、どうしても無難な人妻ものが多くなってしまい、昔に比べて表現の幅が非常に狭くなっています」(三条)

確かに、現在のエロ劇画誌のほとんどが、タイトルやテーマに人妻を大きく掲げたものが多いようだ。

この世を謳歌していた恐竜が環境の変化に勝てずに、小回りの利く小さな哺乳類に取って代わられたように、エロ劇画もその役目を終えたのだろうか?

劇画狼は、そんな問いかけに否を唱え、「今のエロ劇画は、〝新種のマンガ技法〟がゴロゴロ見つかるのが楽しい」とこう語る。
「古きよき時代にとどまるのか、それとも時代とともに歩むのかという狭間の中で、ひずみが出ている空気感がすごいですね。その中で、人知れず独自の手法を確立している作家が多いです。例えば、ねむり太陽先生の悪夢みたいな乳首残像、大災害みたいなCG背景、誰も聞いたことのない擬音や、セニョール大悦先生の〝怒鋼直根〟と書いて〝セックス〟と読ませるような難読漢字芸は、一読の価値ありです」

もちろん、活躍するエロ劇画家たち自身も、その可能性を諦めていない。

「原発事故対策、オリンピック裏金疑惑、舛添の公私混同ぶりとか、今の日本の政治はメチャクチャだよね。今後は、もっとそういうものに対する怒りを作品に反映させていきますよ。今描いている連作の最後は、殺された連中がゾンビになって国会議事堂で政治家を食いまくる、という案を考えているんです。そのラストを描くまで、俺の命があるか、それとも出版界が滅びているか、それはわからないんだけどね」(松本)

三条もまた、新たな仕事に取りかかり始めている。

「今度、念願がかなって日本最大の奇書と言われている『家畜人ヤプー』の劇画化をリイド社のウェブで連載することになりました。しかも、全ページフルカラー。これまでも何度か漫画化されたけど、そのどれとも違う、僕にしか描けない作品にしますよ」

一方で、エロ劇画家たちは「草食男子」という言葉に端的に表現される、昨今の男性の軟弱化も嘆く。

「今は、男の欲望が希薄になっているんじゃないかと心配でね。オスって生き物は、もう少し野性があったほうがいいと思います」(笠間)

「最近の若者は、野獣性が欠けてるんじゃないかな。俺がガキの頃なんて、カレンダーなんかのレオタード女性を見ただけで興奮できたのに」(松本)

男たちは今こそ、自身の復権を賭けて、エロ劇画を手にするべきではないだろうか。取材の最後に、三条からこんな言葉が飛び出したのも印象的だった。

「エロ劇画は読み終わったら、そのへんに捨てればいいんだ。それを子供が拾って、親に隠れて見てマスかいて、ベッドの下に隠しておく‥‥そうやって回っていくのが、正しいエロ劇画のあり方ですよ」
(文中敬称略)